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交通事故の治療には健康保険・労災保険を使うべき?

[記事公開日]2013/09/29
[最終更新日]

交通事故で負った怪我の治療には、間違いなく健康保険や労災保険が使えます。
この事実に間違いはありません。しかし、病院では経営上の理由から健康保険の使用を拒否することがあります。

過失が5割では、必ず健康保険や労災保険は使用すべきです。

しかし、健康保険を使わせない病院、経営上の理由?

健康保険を使わない治療の場合は「自由診療」と言って医療費が自由に設定できます。逆に言えば、健康保険を使用した場合は、決められた医療報酬しか請求することができません。そう、病院は健康保険や労災保険を使うよりも自由診療のほうが、自由に医療費の設定ができるので儲かるのです。

こういった理由から、病院や整骨院では、その治療に対して健康保険を適用する事を拒否するのです。

儲けのカラクリはこうです。病院での治療の場合、医療行為に対して点数が決められています。病院はその点数を変えることはできません。

そして、治療後に合計された点数に10円をかけるのが健康保険で12円をかけるのが労災保険(点数計算方法が少し違う)です。この単価は変えることができません。

医療単価が100点ならば治療代は健康保険で1000円、労災保険で1200円になります。ところが、自由診療の場合には、1点単価が20円であろうと30円であろうと「自由診療」なので単価設定は”自由”なのです。

ただ、交通事故で一般的に言う「自由診療」には二つあり、上記の報酬点数あたりの単価が上がるパターンと、報酬点数の計上方法を労災基準に従った自由診療の2つがあります。労災に従うパターンを自賠責診療報酬基準といいます。自賠責診療報酬基準は、合計点数そのものが健康保険に比べて高くなるので、これに単価を×20円とすることはありません。昔、交通事故をあまり扱わない町の小さな眼科が労災基準で出した点数に、さらに30円を掛けていましたが、さすがに保険会社は、計算し直すように病院へ伝えていました。

なお、自賠責診療報酬基準の採用については、平成23年10月の岡山県の合意があったのを最後に平成25年時点では46の都道府県医師会と損保との間で「基準案は労災保険診療費算定基準に準拠する」という合意がなされています。ただし、医師に対する拘束力はありません。*平成27年に最後に残った山梨県の医師会は自賠責診療費算定基準を採用し全国的に足並みがそろいました。

ところで、健保を使用すると医療費が抑制できる理由は3つあります。

1、単価および算定基準の問題 100点でも自由診療で1点単価を20円や30円にしたら、健康保険では1000円なのに、健保不使用の自由診療では2000円や3000円になります。だからこそ、健康保険を使うと医療費を抑制できるのです。また、健保を使用すると、合計点数が高くなる労災よりも低い点数になるのでこれも医療費の抑制理由となります。

2、負担割合の問題 窓口払いの場合、被害者にとって治療費負担となるのは、健康保険で医療費の3割(上記1の例では340円)、労災保険では医療費の負担ゼロです。しかし、自由診療は治療費負担割合は10割です!つまり、健康保険を使用した時の自己負担340円の治療が、自由診療では2.000円以上もするのです!例えば被害者に2割の過失がある事故ならば、健康保険では治療費の3割の2割は自己負担となり、自由診療では治療費の10割の2割が自己負担となり、大きな差が生まれます。

*1、現在、ほとんどの病院が自賠責保険診療費算定基準にそった算定基準で計算されており、多くの交通事故の医療費はこの自賠責保険診療費算定基準を使用して算出されています。ただし、労災の場合は点数に1.2を掛けますが、自賠責の場合は1.2もあれば1.5の時もあり、まだまだ、自賠責保険診療費算定基準というよりも、自由診療の色を残しています。

*2、自賠責保険診療費算定基準はまだ”案”という言葉がついている状態です。そんな不安定な基準でも一応、令和に入り交通事故診療という言葉も浸透し、交通事故の医療費を全国的に統一させようとする動きはさらに強まっています。

3、診療点数が計上できる場面が異なります。健康保険では厳しく制限されますが自賠責基準などではより多くの点数が計上できます。たとえば同じリハビリ治療の自賠責保険・自由診療ではリハビリ毎に毎回再診料が計算され、医師の診察を受けていなくとも計上されますが、健康保険では医師の診察を受けなければ計上できません。よって、点数の合計自体が変わってきます。

対策:保険の適用を拒否する悪質(といっていいでしょう)な病院には昭和60年の大阪地裁判決を引用します。

「健康保険取り扱いの指定を受けている医療機関である限り、保険証の提示をして健康保険の利用を求めれば、これを拒否することは出来ない」

さらに、厚生労働省の通達を引用します。

「交通事故も一般の交通事故となんら変わりなく健康保険が使える」

交通事故の治療で保険適用を拒否されたら、この二つをビシッと病院に教えてあげましょう!

ちなみに、業界用語では自由診療から保険診療に切り替えることをことを「ケンキリ」といいます。

「ケンキリしてください。」

この一言で、事務の人は「素人ではないな」ということで保険適用をしぶしぶ了解するかもしれません。もちろん、健康保険の適用は交通事故受傷時(初診時)からがベストですが、健保適用を遡る事ができるかどうかは病院との交渉次第です。

被害者に過失がある場合では、治療費も過失部分は自己負担になります。したがって、過失事案では健康保険の使用をお勧めします。ただし、自賠責基準かつ自賠責範囲内で示談をすることが出来る場合は、あえて健康保険を使用する必要はありません。結果は同じだからです。手続きが面倒でデメリットなだけです。

なお、健保使用の際の注意点は、医師との関係を重視することです。町の医者=経営者である場合が多く、健保に切り替えると後遺障害診断書を書かなかったり、態度が急変する場合があるので、注意が必要です。

その時の状況に応じて適時対策を講じる必要があります。

参考:交通事故の被害者と医師の関係について

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8 thoughts on “交通事故の治療には健康保険・労災保険を使うべき?

  1. お答えありがとうございます
    半年以上休職して収入がありません
    自分のケガについては保険に入ってなかったので全額健保でした
    健保からの請求に対して支払い能力がありません
    事故で休んだ分の傷病手当金も出るかどうかも分かりません
    会社に申請したら自賠責から出るので申請出来ないと言われました
    健保の請求に対して支払えないとどうなるのでしょうか?

  2. こちらがセンターラインを越えて相手と右正面同士衝突しました
    こちらは左手首と右足首の骨折等で全治6ヶ月
    相手は鎖骨骨折と手の親指脱臼全治3
    自賠責も降りず現在審査中です
    仮渡し金20万のみ出る事になりました
    治療に健保を使い高額医療適用されました
    後日完治した際健保から過失相殺割合で治療費の立て替え分の請求が来るのでしょうか?
    割合ははっきり決まってないですがこちらが8-2か9ー1位の見通しです

    1. >健保から過失相殺割合で治療費の立て替え分の請求が来るのでしょうか?

      相手が法律通りに手続きを行っていれば、健保から求償という「立替えたのであなたの責任分を支払ってください」と請求がきます。その責任分は健保との話し合いになります。

  3. 10/1に私が50ccバイク相手は車で事故にあいました。
    30キロ道路を20~25キロで走行中に脇道から車が出てきて真横からぶつかりました。過失割合は私が15で相手が85です。
    保険会社は双方ともJA共済です。担当の方に保険証を使ってくれれば、病院代は全て持ちます。と言われました。が、それを書面にしてくださいとお願いしたら、それは、できません。と言われました。
    保険証を使うメリット、デメリットはありますか?

  4. バイク事故なんですが…私が走っていた所は一方通行だった様で…相手の車は加害者では無くなるのですか ?打撲怪我が有り…治療をしたいのですが請求は出来ないのでしょうか.

    1. 一方通行逆走をもって、ただちにこちらが過失の多い加害者となることはありません。事故状況がより詳しく分かれば判断できます。

      自賠責保険が適用される事故かどうかも不明ですが、過失減額などが発生した場合に備えて、念のため健保使用はお勧めです。

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