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判例:近親者の付添看護費 ~無償の看護は損害になるか?~

[記事公開日]2006/12/12
[最終更新日]

判例要旨

1.交通事故の治療で付添看護を必要とした場合に、近親者の無償の付添看護費について。

2.損害賠償と生活保護の受給資格について。

理由

 原判決(その引用にかかる第一審判決を含む。以下同じ。)は、上告人が昭和四〇年一月一日から同四一年一二月三一日までにその三人の娘より受けた看護を一日分五〇〇円と評価し、これを財産的損害としてその賠償の請求をしたのに対し、次のように判示する。すなわち、親に身体の故障があるときに子がその身のまわりの世話をすることは、経済的な対価を求めない肉親の情誼に出た行為であつて、子の付添看護労働を金銭的に評価し、現実の支出はないのにかかわらず、家政婦や付添人を雇つたときと同視してこれを財産的損害とみることはできない。したがつて、上告人がその娘に対し右金員を現実に支払つたものでも、支払いを求められているものでもない本件においては、右金員を損害としてその賠償を請求することは許されない、としているのである。以前の判決では、近親者の付添看護費は認めないといっているが?

 しかしながら、被害者が受傷により付添看護を必要とし、親子、配偶者などの近親者の付添看護を受けた場合には、現実に付添看護料の支払いをせずまたはその支払請求を受けていなくても、被害者は近親者の付添看護料相当額の損害を蒙つたものとして、加害者に対しその賠償請求をすることができるものと解するを相当とする。けだし、親子、配偶者などの近親者に身体の故障があるときに近親者がその身のまわりの世話をすることは肉親の情誼に出ることが多いことはもとよりであるが、それらの者の提供した労働はこれを金銭的に評価しえないものではなく、ただ、実際には両者の身分関係上その出捐を免れていることが多いだけで、このような場合には肉親たるの身分関係に基因する恩恵の効果を加害者にまで及ぼすべきものではなく、被害者は、近親者の付添看護料相当額の損害を蒙つたものとして、加害者に対してその賠償を請求することができるものと解すべきだからである。単に近親者という理由だけで出費を逃れているのであって、近親者にも付添看護をしたことによる損害は発生しているのだから、付添看護費は認められるべきである、といっている

 したがつて、これと異なる見解のもとに、上告人の娘らの付添看護料相当額についてはこれを財産的損害と解することができないとした原審の判断は、民法七〇九条、七一五条一項、自動車損害賠償保障法三条にいう損害の解釈適用を誤るものであり、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。最高裁が、高裁の判決は間違いだといっている

 原判決は、上告人が保護実施機関に対して生活保護法六三条による費用返還義務を負うものではないとし、その根拠として次のように判示する。すなわち、同条は要保護者が同法四条一項にいう「利用し得る資産」があるにかかわらず、同条三項にいう「急迫した事由がある場合」にあたるとして、例外的に開始された保護受給の場合の受給者の費用返還義務を定めた規定であるところ、右にいう「利用し得る資産」の中には債権をも含ましめうるとしても、本件のように交通事故にあつた被害者が加害者から直ちに賠償を得ることができず訴訟にまで至つているような場合においては、責任の範囲数額に関する争いがやみ現実に賠償金を取得するまでは、右の損害賠償債権をもつて「利用し得る資産」にあたるとすることはできず、右被害者は、他に需要を満たすに足りるだけの資産等がないかぎり本来的に保護受給資格を有するものであつて、同法四条三項により例外的に保護を与えられているものではない。したがつて、上告人は、同法六三条による費

用返還義務を負うものではない、としているのである。

 しかし、原判示によれば、上告人に対しては、東京都江東区福祉事務所長から昭和四〇年一一月二〇日付をもつて、上告人に対する本件医療扶助は生活保護法四条三項により開始されたものである旨および賠償の責任程度等について争いがやみ、賠償を受けることができるに至つた場合には、同法六三条により医療扶助の費用の返還義務があるので、賠償が支払われたときはその額を申告されたい旨の指示があつたというのである。したがつて、上告人に対する本件医療扶助が同法四条三項により開始されたものである事実をうかがいうるのみならず、同法六三条は、同法四条一項にいう要保護者に利用しうる資産等の資力があるにかかわらず、保護の必要が急迫しているため、その資力を現実に活用することができない等の理由で同条三項により保護を受けた保護受給者がその資力を現実に活用することができる状態になつた場合の費用返還義務を定めたものであるから、交通事故による被害者は、加害者に対して損害賠償請求権を有する
しても、加害者との間において損害賠償の責任や範囲等について争いがあり、賠償を直ちに受けることができない場合には、他に現実に利用しうる資力かないかぎり、傷病の治療等の保護の必要があるときは、同法四条三項により、利用し得る資産はあるが急迫した事由がある場合に該当するとして、例外的に保護を受けることができるのであり、必ずしも本来的な保護受給資格を有するものではない。交通事故の被害者は仮の受給保護資格である。なぜなら、加害者から損害賠償金がもらえる予定だから。

それゆえ、このような保護受給者は、のちに損害賠償の責任範囲等について争いがやみ賠償を受けることができるに至つたときは、その資力を現実に活用することができる状態になつたのであるから、同法六三条により費用返還義務が課せられるべきものと解するを相当とする。上記の加害者からの損害賠償金が手に入ったら、保護された金銭は返還しなければならない。

 したがつて、これと異なる見解のもとに、上告人に費用返還義務なしとし、これを前提に上告人の損害賠償請求を理由のないものとした原審の判断は、生活保護法四条、六三条の解釈適用を誤るものであり、この点に関する論旨も理由があり、原判決は破棄を免れない。 よつて、民訴法四〇七条一項により、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 

     最高裁判所第三小法廷

         裁判長裁判官    関   根   小   郷

            裁判官    田   中   二   郎

            裁判官    下   村   三   郎

            裁判官    松   本   正   雄

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